雰囲気にも酔える佐久の酒蔵

 「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」 牧水の代表歌ですから、ご存知の方が多いと思います。そんな季節が近づいてきました。居酒屋でワイワイがやがや飲むのではなく、一人静かに杯を傾け、来し方行く末に思いをめぐらす。withコロナの時代にふさわしい、時代を先取りしたような歌かもしれません。
 老舗の酒蔵が、ギャラリーでポスター展を開催しているという新聞記事を読み、久しぶりに酒蔵のある町を散策してみたくなりました。向かった先は佐久穂町、小海線八千穂駅近くにある黒澤酒造です。長野県は全国で2番目に酒蔵の多い県ですが、そのなかでも佐久地域は群を抜いており、とくに千曲川の流域(小海線の沿線)は酒蔵が目白押しといっても過言ではありません。その理由は酒造りにふさわしい水と気候です。
 「千曲川最上流の酒蔵」を標榜する黒澤酒造付近の街並みは風情があり、一見宿場町のようにも見えますが、家の表札は「黒澤」ばかり。すなわち黒澤一族によって形成された街並みなのです。黒澤家は信州を代表する金融機関である八十二銀行の源流を為す存在であり、また小海線の前身である佐久鉄道の最後の社長も黒澤家から出ています。要するに地方経済のリーダー役を務めた一族というわけです。
 直売所の裏がギャラリーになっていて、歴代の同社のポスターが展示されていました。時代を感じさせるカラー写真や、レトロなデザインには惹かれるものがあります。残部のあるものは販売もしており、売り上げは昨年の台風19号で被災した町に寄付するということでした。また販促品としてつくられたロゴ入りのおちょこやグラスも同様に販売しており、3個100円(ポスターも1枚100円)と聞いて、つい手がでてしまいました。
 左党ではないポン太は、酒の味にあまりこだわりはないのですが、直売所に並ぶ個性豊かなラベルの酒瓶を見てしまうと、やはり、1本ぐらいは購入せねばという気になります。杜氏一押し、この季節に最適という「礎」というラベルのものを持ち帰りましたが、それは、自家栽培米「ひとごこち」100%使用、伝統的な生酛(きもと)造り(酒母を手作業で造る製法)によるものでした。
 帰路、同じ佐久穂町の大日向地区に立ち寄ってみました。かつての大日向村です。国策として推進された満州への分村移民。そのモデルケースとして喧伝され、同名の映画も制作されました。その末路が悲惨なものであったことは周知のとおりです。明治期に起きた秩父事件では、政府軍に追われた秩父困民党軍が、十石峠を越えてやってきました。その200名余を宿泊させたのが大日向の龍興寺。彼等は寺に宿代を置いて立ち去ったということです。その後、東馬流(小海線馬流駅付近)で政府軍と警察部隊の攻撃を受け、壊滅しました。
 のどかな大日向の山村風景ですが、歴史を頭において眺めてみると、様々な感慨が湧いてきます。家にもどって先ほどの「礎」を口に含むと、波打つ稲穂が目に浮かび、牧水の歌を反芻してしまいました。

 ここが黒澤酒造です。看板商品は「井筒長」ですが、屋号の「マルト」を冠したものなどいろいろあり、酒粕も美味です。
黒澤酒造.JPG
 まわりの街並みもすばらしく、散策したい気分になります。
黒澤酒造付近の街並み.JPG
 酒の資料館もあり見学することができます。入口の杉玉は酒屋のシンボルです。
黒澤酒造酒の資料館.JPG
 こちらが直売所とギャラリーの入口です。
小売り部とギャラリ-入口.JPG
 ギャラリー内部はこのようになっていて、壁面にポスターが展示されていました。
ギャラリ-内部.JPG
 販促品のおちょこ類ですが、見れば欲しくなるものばかりです。
促販グッズ.JPG
 購入した「礎」がこれです。ラベルの文言によれば、先代杜氏で、酒造りの道一筋に五十余年、当蔵醸造の礎を築いた中沢礎氏の伝統を引き継ぐ思いを込めたネーミングだということです。手前のおちょことグラスは販促品ですが、なかなか洒落ています。
黒澤酒造「礎」.JPG
 大日向への入口でもある小海線羽黒下駅です。駅舎は佐久鉄道として開業して以来のものですが、最近、少し手を入れたようで、雰囲気が変わりました。
改装された羽黒下駅.JPG
 ここが旧大日向村です。山村ではありますが、農地も広く、赤貧洗うが如き寒村というイメージではありません。国策にうまく利用されてしまったということでしょうか。
大日向全景.JPG
 大日向の龍興寺です。天正18年の開山という曹洞宗の古刹です。
大日向の龍興寺.JPG
 龍興寺の池の畔には、村出身の満州移民で命を落とした373名の供養塔が建てられています。
龍興寺の池と満州移民慰霊塔.JPG
 人口減少で廃校となった佐久東小学校(旧大日向小学校)の跡地に、近年、日本で初めてというイエナプラン教育に基づく私立の大日向小学校が開校しました。ここからまた新たな時代が切り開かれて行くのかもしれません。
新しい大日向小学校.JPG
 佐久は酒所ですから、少し車を走らせただけで、いくつもの酒蔵に出会います。これは佐久穂町から佐久市へ入った臼田駅近くにある「佐久の花」酒造です。「佐久乃花」は信州を代表する銘柄として人気があります。
佐久の花蔵元.JPG
 同じ臼田地区には、井出一太郎、井出孫六、丸岡秀子といった著名人を輩出している井出家の酒蔵、橘倉酒造(ブランド名は「菊秀」)もあります。元禄以来三百余年の歴史をもつという老舗です。
橘倉酒造正面.JPG
 佐久市大沢地区には木内酒造(ブランド名「初鶯」)があります。こちらも江戸時代創業の老舗です。
木内酒造.JPG
 佐久市野沢地区にある伴野酒造(ブランド名「澤乃花」)は小さな酒蔵ですが、コンセプトは「世界に笑顔を」だそうで、既成概念にとらわれない「Beau Michelle ボー・ミッシェル」という横文字ラベルのお酒もあり、酒-1グランプリ2015 で総合優勝したそうです。
伴野酒造.JPG
 佐久市平賀にあるこちらの芙蓉酒造は、会社ではなく協同組合だそうです。
芙蓉.JPG
 ここでは一部しかご紹介できませんが、佐久地域には全部で14の酒蔵があるそうですから、左党の方は味を試してみてはいかがでしょうか。
 

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